外交関係の筋論と戦略論

Posted at 05/07/29

筋論と戦略論

国際関係のことを語る語り方には、筋論と戦略論があるように思う。もちろん、筋を通すだけですべてに通用するわけもなく、また戦略あって理念なし、というのではその戦略もなかなか有効たり得ない。そのどちらもあって初めて有効な国家の外交論となるわけだが、残念ながら現在の日本ではなかなかその双方がそろっていることは稀なようである。

たとえば、左翼陣営はアメリカに対しては筋論を強硬に主張することが多い。筋論というのは感情のレベルで人を納得させる力を持っているから、『アメリカのやり方』に反感を持っている人々を比較的多く巻き込む可能性を持っている。しかし、中国や韓国に対してはメタメタである。筋を通すというより、相手の言い分に対して唯々諾々と従っているだけ。それを持って日本の誠意と勘違いしているが、結局は中国や韓国に筋を通すことは「危ない」、という一般市民の感情を強めているだけである。『バカアホ間抜けのアメリカ白人』、という本は出版できてもアメリカ白人というところをどこかアジアの国民の名前を入れたら絶対に発行できないだろう。かなり冷静に書かれている(らしい)『マンガ嫌韓流』でさえ大手の出版社、書店、週刊誌などは無視を決め込んでいる。いい面も悪い面も取り上げて公平に評価しよう、という『筋論』は全く通らないようである。結果的に韓国や中国に対しては黙っておいた方がいい、という(なさけない)戦略を生んでいる。

もっとも悲惨であったのは村山社会党政権であって、中国や韓国に筋をとせなかった一方でアメリカには好き勝手なことをいい日米安保も自衛隊も違憲としてきたのにその『筋』は通せなくなって、結局すべての『筋』を失って日本を路頭に迷わせた。このときが戦後独立回復後の日本で国家というものが一番弱体化したときなのではないかと思う。

当時私の周囲では国家は弱い方がいいという意見が強かったので案外いい政権ではないかと話し合ったことを覚えているが、国家が弱体化したまさにそのとき、阪神大震災と地下鉄サリン事件が日本を襲ったのである。これによって多くの人々が国家が強力であることの必要性を強く感じたと思う。

話を戻すと左翼陣営の方向性に反対し、保守派の陣営は中国や韓国に対しては強硬に筋を通そうという方向性が最近強くなってきた。これを左翼陣営は右傾化だとかナショナリズムの暴走とかいうふうに評価しているが、そんなことはないと思う。むしろ封殺されてきた言論に風穴が開きつつあるために一部非常に元気なように見えるだけで、それほどのことはないと思う。

しかし、保守のなかでも一部のいわゆるポチ保守と言われる人々は、アメリカに対して筋を通すという主張をしない。原爆によるホロコーストや沖縄戦の鉄の暴風、あるいは戦後の米軍兵の犯罪など、アメリカが行ったことに対して筋を通し、また現在のアメリカの行動に対しても筋を通して異議を申し立てようという主張でなく、とにかくアングロ=サクソンについていけば安全だとか、アメリカの世界支配は当分崩れないから何がなんでもついていくべきだという筋もへったくれもあったものではない主張が多い。アメリカについていくのが日本の戦略だ、というわけである。はなはだ情けない戦略ではあるが、戦略といっても常に雄々しいものとは限らないからそういうこともあるだろうとは思う。もちろんそんなに感心できるものではないが。

小林よしのりが結局多くの人々の支持を受けるのは、中国や韓国に対して、たとえば靖国神社や大東亜戦争の問題で筋を通そうとしているだけでなく、アメリカに対してもイラク戦争や沖縄の問題で筋を通そうとしていることにあるのだと思う。小林の主張に対する親米保守派の主張は、要するに現実的でない、アメリカを敵に回すような危険がある言論はよくない、ということに尽きる。小林は政治方乱としているのではなく思想家たらんとしているのであるから、だらしのない戦略論、情けない戦略論に与しようとしないのは当然だろう。その点で多くの人々は小林の主張を支持しつつ、戦略的にはそれでいいのか、という危惧を抱くのであろうと思う。

小林はそうした主張の一方で中国の学者と対談したりヨーロッパからの取材を受けたりしながら自らの主張の正当性を訴えていて、欧米世界において筋を通す、自分の正当性を相手に納得させるというのがひとつの立派な戦略でありえる(それで十分かどうかは別にして)以上、戦略的にも動いているとは言える、と思う。

しかし、政治家など実務に関わる人々は筋論の議論を踏まえた上でさらに日本の進むべき道を切り開く必要がある。日本外交にかけているのはまさにその点であって、筋を通さずテクニカルな面にばかり走りたがる日本人の悪い癖が出ているところを修正しなければならないだろう。

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by Luke Peterson

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