『手記』のリアリティ/人が時間の中で生きているということ/民主主義の意味と価値
Posted at 05/07/22 PermaLink» Tweet
本格的な夏なのだが、信州では朝夕は涼しい。というより、寒いくらいである。寝入るときは暑かったので上半身に布団をかけないでいたら、明け方寒くて目が覚めた。半袖だとひんやりするくらいである。夏の朝は気持ちはいいけれども、ちょっと気をつけなければいけない。
昨日は仕事が滞ってどこもかしこも「風のかけたるしがらみ」のような物事の進まない状態が現出していて参ったが、やるべきところから地道にやっていたらだんだん通りがよくなってきたようだ。まだ大物がいくつか残ってはいるが、少しずつ解決するしかない。
『戦艦大和ノ最期』はまだ戦闘シーンに入ったところ。その迫力はすごい。それまでの場面で一人一人の個性を描写されていた戦友が次々と戦死していくさまは壮絶というしかない。米軍航空部隊の第一波の攻撃が終わり、第二波が始まったところだが、まだこの作品の半分なのだ。後の描写はいったいどういうことが続くのか。作者の吉田満は後書きで、終戦直後にほとんど一日で書き上げたといっている。漢字カタカナ混じり、専門用語も多く読みにくいということもあるが、いちいちその場面を受け止めながら読むと相当時間がかかりそうだ。
陸軍の戦闘というのはまだ想像がつくような気がするが、海軍の戦闘というのはまた少し違う感じだ。子供のころ読んだケネディが海軍にいたとき日本海軍にやられて漂流した話などくらいしか覚えがない。後は今連載している『日露戦争物語』の中の日清戦争の黄海海戦の場面だろうか。ただ、江川達也の絵はそういう意味では想像の膨らみにくい絵で、吉田満の描写の方がリアリティを感じる。仕方のないことだが、江川の方は作り過ぎと言う感じがする。吉田の方は手記だから、そういう意味では全然違うわけだが。
そう言えば『手記』と言うのはどんなジャンルに入るのだろう。最初から作品を作るための取材を元にして作られたドキュメンタリーやルポルタージュと違い、ある特殊な経験をした個人がその経験について述べる『手記』は、その圧倒的なリアリティにおいて強い特色を持っているように思う。先日書いた『国家の罠』もそうだが、引き上げ体験を書いた藤原てい『流れる星は生きている』なども代表的な『手記』だろう。一人称の記述の重要性と言うものを最近特に感じている。
いろいろ見ていると、今まで見ていたサイトにもブログを新しくはじめたところが多く、そこから新しい情報を得やすくなっていることに気がついた。それらを一括してアンテナに登録しておけば興味関心の対象だけでなく「役に立つ」情報も入手がたやすくなる、ということだなと思う。ふと思ったことはぐぐって調べてそれで終わりとすることが多かったが、ブログ+アンテナと言うツールがあればその後の状況の変化なども簡単に追跡することができる。考えてみれば当たり前のことだけど、そんなふうなことを改めて感じたのは、つまりネットと言うのは自分にとって生活に役立つものではなく観念の操作のようなことに使う物と認識していたということなのだと思う。
またもうひとつ感じたのは、人間というのは時間の流れの中で生きているのだなあと言うこと。一度自覚し認識したことも時間の経過の中で否応なく変化していく。認識を日々新たにするということがいかに重要で、しかも困難なことか。あるひとつのことに集中していると、そうした時代の変化に気がつかないことが往々にしてある。
ブックレビューガイドbというサイトは、新聞や雑誌などマスコミで取り上げられた回数をカウントしてランキングを作るという企画を行っていて、最近1ヶ月のランキングは1.風味絶佳、2.電車男、3.蒲公英草子、4.赤塚不二夫のことを書いたのだ、5.国家の罠その他、となっている。この中で読んだのは『国家の罠』だけだが、それぞれになんとなく話題になり、書店にも積まれているものである。2004年一年間のランキングはこちらだが、1.蛇にピアス、2.負け犬の遠吠え、3.セカチュウ、4.13歳のハローワーク、5.蹴りたい背中と続く。これらは一冊も読んでいないが、話題になったということはよく把握している。
しかし、2003年や2002年のを見るとあまりよく把握していないものが続いている。2003年はバカの壁、2002年は声に出して読みたい日本語くらいしか読んでいない。この時期は世の中の流れと自分との関係がどうだったのか、ちょっと振り返ってみないとわからない。
昨日ちょっと愕然としたのは、こういうところでこれだけ話題になっている『国家の罠』が地元でもっとも大きな書店になかったことだ。田舎では、国家うんぬんというような本は売れない、ということだろうか。『国家の罠』のなかで、外交をめちゃくちゃにする田中真紀子を心情的に応援する国民が多いことを日本の実質識字率は五パーセントだから、という人物が出てくることが書かれているが、識字能力=リテラシーをメディアリテラシーの能力と考えると確かにそんなものかなと思う。その原因は、特に地方における国家的な問題への無関心ということにあるのではないかと少々憂鬱になった。
それとも田舎のひとたちの「帝力いずくんぞ我にあらんや」という無関心な鼓腹撃壌ぶりを世はすべてこともなしと寿ぐべきなのだろうか。この問題、民主主義というものの意味と価値を巡って少々重大なものでもある。民主主義というものの絶対的な優位性に疑問を持っている私などとしては、ちょっと考えてみなければいけない問題だという気もする。
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