李氏朝鮮王朝最後の皇太子の嫡子の東京での死
Posted at 05/07/21 PermaLink» Tweet
李氏朝鮮王朝最後の皇太子・李垠殿下の嫡子、李玖氏が東京で亡くなられた。極東ブログで知ったのだが、李氏にお子さんはいないようで、大院君・高宗の系統の王家はこれで途絶えるということになるのだろうか。もっとも高宗はそれ以前の王統からはかなり遠い系統からの傍系相続なので、それ以前の王統と同じくらいの距離の人たちはまだたくさんおられるのかもしれない。10年以上前になるが、韓国からの留学生と話しをしたら王家と同じ本貫の李氏であったことがあった。宗族というのは民族学で言うクランにあたるのだろう。韓国の宗族や沖縄の門中などの話しも極東ブログには書かれていたが、とっくに氏族社会ではなくなった日本内地の我々からは想像もできないほど身近に感じる人がたくさんいるのだろうなと思う。
李氏の母君はよく知られているように日本の旧皇室、梨本宮家の出身である。しかし、韓国人になろうと努力され、終戦のときは夫君におめでとうございますといったという。しかし、殿下が朝鮮王位に復活される事はついになく、方子妃殿下も韓国のために尽くされて韓国で亡くなられた。極東ブログ氏は妃殿下には何がなんでも日本で死ぬわけには行かないという迫力のようなものがあったと書かれているが、いわば2世である李玖氏の心情はまた複雑なものがあったのだろう。ネットでさまざまな記述を読んでいると結局韓国社会になじめず、また米国人の夫人とも離婚し、最後は日本で女性の占い師と過ごされて、亡くなったときはお一人で死亡日も推定でしかない、という状態だったという。まさに現代史に翻弄された一生というしかない人生であられたようだ。
彼の約束の地がいったいどこであったのか、私には知る由もないけれども、母君のその迫力のようなものが李氏にはない。革命の世紀であった18-19世紀のヨーロッパでは多くの流浪の王族の話を読むことができるが、20世紀後半が東アジアではそういう時代だったのだなと思う。ヨーロッパでは社交界などある種のコスモポリタン社会がトップエリート層には形成されていたわけだが、東アジアにはそういうものがなく、流浪を強いられた人々の生活振りはいかにも物寂しいことになってしまうようだ。ヨーロッパには古くから王族間の通婚が盛んに行われていたことがひとつのベースにはなっているが、フランス革命以来のナショナリズムの伸張の一方で、革命に反発するかたちで成立したそういうコスモポリタニズムが発展したことが、ヨーロッパ社会のひとつの成熟の要因だったと思う。
日本主導で東アジアの王族・あるいは旧王族間の通婚は戦前期に進みつつあったけれども、日本の敗戦とともに彼らは各国のナショナリズムの餌食にならざるを得なかった。そうしたかたちでの国境を超えた関係が成熟する以前にイデオロギーやナショナリズムを元にした対立に巻き込まれていったことが、ヨーロッパと比較すると東アジアの国際関係が稚拙なものになってしまっている一つの要因としては考えられる。ナショナリズムを押さえるためには通商と貿易により相互依存を深めることが重要だという議論があるが、商業的な利害関係だけではそうした関係を深めることはある程度以上は難しかろう。何かの映画で、たとえ戦争になっても同じ貴族階級としてフランスの将校とドイツの将校がお互いに尊敬しあう話があったが、ナショナリズムが制圧しきれないそういう国際的な連帯意識をもっと多様なかたちで作っていかなければ、こういうぎくしゃくした関係はなかなか解消できないだろう。「人民どうしの連帯」、という思想は共産主義が崩壊した現在となってはもう友好性を失っているだろう。というかそのお題目は結局共産主義国家に使われるものに過ぎず、そこで生じた幻想が結局は拉致事件などから国民の目を遠ざけたことを考えるとむしろ有害でさえあったと思う。階級闘争史観に依拠するのでない連帯意識の構築が今後求められていくのだと思う。
李氏のご冥福をお祈りしたい。
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