「ナショナリズム」は強まっているのか?:『国家の罠』を読んでの疑問と私なりの回答
Posted at 05/07/20 PermaLink» Tweet
梅雨が明けてから、やはり本格的に暑くなって来たようだが、信州はそれでも涼しい。いま、少し疲れて横になっていたら半袖では少し寒いくらいだった。これから午後にかけてぐんぐん気温も上がるだろうから、それで困ると言うことはまずないだろうが。
昨日はいつもどおり家を出、東京駅の丸善で本を物色、今村楯夫『ヘミングウェイの言葉』(新潮新書,2005)を買う。車中で『国家の罠』をを早々に読み終わったら読もうと思ったのだが、結果的にはあまり残り時間がなかったし、『戦艦大和ノ最期』の方を読んだのでまだ読み始めていない。
『国家の罠』は読了した。昨日書いたとおり「冷静な興奮」という感じで、一番たって見ると自分の中に熱気の残りのようなものがあまり感じられない。徹頭徹尾、頭脳のゲームなのである。またあまりに感情的なものを客観視して書いているためか、感情と言うものが別のもののように見えてくるところも「思い入れる」ということを阻害している要因だろう。
また、あとがきで明らかになるが和田春樹、魚住昭といった人たちに事前に原稿を読んでもらっていて、そのあたりの人脈がHmmmという感じなので醒めた、という部分もある。
彼の事件をめぐる国策操作がなぜ行われたかという分析も、二つの大きな国の流れの転換、つまり経済的にはケインズ型公平配分システムからハイエク型傾斜システムへの転換と、外交的にはナショナリズムの強化があった、といっている。これは彼の言い方ではそうなるが、いわば従来のばら撒き・公平配分システムから市場至上主義的・「公平」負担システム(老人も医療費を負担するなど)への転換と、外交的にはアメリカ中心主義・アジア主義(要するに中国韓国重視)・地政学主義(遠交近攻策、つまり一番遠いロシアと接近すべき)という三つの従来の流れがアメリカ一辺倒になったという転換があった、という風に解釈しなおした方が私としては納得できる。小泉首相の政治行動そのままであるが。だから、ナショナリズムの強化といういい方は少々引っかかるものがあるし、彼の思想的背景にそういう風に評価する何かがあるのではないかという気がする。
本文で印象に残ったことのひとつは、彼は情報担当者にとって自己のプライドは有害であり、持つべきでないと考えていることである。従って、誰に聞かれてもそれについては「私はプライドはない」と答えている。それに対し、彼を追及する検事や仲間らは佐藤氏を「本質的なところで非常にプライドが高い」と評価している。
ここは非常に重要な問題があるのだが、普通に考えればやはり佐藤氏は「本質的なところで非常にプライドが高い」という評価が妥当だと思う。しかし、佐藤氏は、恐らく他者が彼をそう評価する部分を「プライド」とは考えていないのである。
ではそれはなんだろうか。私の考え、ということになるが、つまり彼は自らが外交官であること、自らが情報担当者であること、自らが日本国民であること、そういうことに「しっかりとしたアイデンティティを持っている」ということなのだ、と思う。日本人は通常それを「プライド」と評価するが、私は考えているうちにそれはプライドというより、アイデンティティというべきではないかと言う気がしてきた。つまり、自分が外交官であるから当然こう振舞わなければならない、情報担当者であるから、日本人であるから、こう振舞わなければならないという意識を、プライドといってしまうから自己肥大的なイメージになるのであって、そうではなく、アイデンティティという範疇に入れておけばそれこそ「当然のこと」で話しが済むのだと思う。任務のためならプライドは捨てる、というのが情報担当者として必要なあり方で、それを周りは「本質的なプライドの高さ」と評価するが、それを「プライドを捨てるプライド」のような言いかたをしては変なことになる。それは任務とそれを果たすべき存在としての自分を絶対に忘れない、という意味で自己同一性が強固であるということであり、アイデンティティと言うべき内容なのだと思う。
話しを戻すと、私が感じているところで言えば、ナショナリズムの高まりというと日本人としてのプライドの目覚め、イコール危険というように話しを持っていく人が多いけれども、根本的なところでは日本人としてのアイデンティティが自覚されてきている、というレベルの現象も多いのではないか、ということなのである。書きながら、恐らくはわけのわからないプライドが肥大化しつつある人もまあ中に入るだろうなということは私も認めるのは吝かではないが、最低限日本人が日本人であるというアイデンティティだけはしっかりさせなければならないと思うし、まだまだそれは全く達成されていないように私は思う。たとえば海外で、観光旅行などに行っても、日本人として恥ずかしくない行動を取ろう、と思っている人がどれだけいるか。欲望の充足だけに、つまりアイデンティティの確立していない子供と変わらない行動を取る人がどれだけ多いか。それは一例だが、日本人としてのアイデンティティ、それは「恥を知る」ということもそのひとつだと思うが、
そういうものを確立させていかなければならないと思う。
だから、高めるべきは、ナショナリズムというよりはパトリオティズムというべき物なのだと思う。そういう理論があるかどうかは知らないが民族としてのプライドがナショナリズムに結びつき、(大中華主義やナチズムなどは確かにそうだ)、民族としての、あるいは国民としてのアイデンティティがパトリオティズムに結びつく、と考えておけば、一つのアポリアがクリアできるような気がする。
だから今考えるべきはそうしたパトリオティズムの成熟であり、国家の義務、国民としての義務ということを考えなければならない。拉致問題などはまさにその典型であると思う。
アイデンティティがしっかりしていさえすれば、外交の重心をアメリカに置こうが中韓に置こうがロシアに置こうがそれはそうたいしたことではない。
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