大本に対する弾圧/「なぜ人を殺してはいけないか」
Posted at 05/07/11 PermaLink» Tweet
昨日。やはり午後遅く出かけ、淡路町の谷中珈琲店でコロンビアを300頼んだら1時間かかるといわれ、仰天して早く出来るイタリアン200グラムに変更。今イタリアンを飲んでいるが、やはりコロンビアにしたら良かったな。神保町で本を物色したら、1時間くらいどうということはなかったのだが。
三省堂を見ていたらナルニアのオールカラー版、『カスピアン王子のつのぶえ』と『朝びらき丸、東の海へ』が出ていたので購入。この版で全巻揃えようと思う。原語版のほうはペーパーバックでそろっている、というか一括購入したのだが、あの挿絵がオールカラーというのはちょっとぞくぞくする。長生きはするもの、という感じ。ルイス自身はあの挿絵をカラーで見たことがあるのだろうか。
そのほか、井沢元彦『逆説の日本史』9巻戦国野望編(小学館文庫)を購入。石川九楊の『縦に書け!』と並行して読書中。
もう読み終えたが、『神秘家列伝』の出口王仁三郎のところをしばしば思い出す。教祖の出口直と教主の王仁三郎にそれぞれ天照大神と素戔鳴尊が憑依して、家の一階と二階で争うという話は何度も思い出すところを見ると、私自身にもずいぶん強烈な印象として残っているのだろう。彼らはやがて皇道大本と名乗るが、二度にわたる官憲の大迫害で勢力を失う。時代で言うと大正10年の原敬内閣、昭和10年の岡田内閣の二度である。比較的リベラルと思われるこの二つの内閣でこうした弾圧が行われたのはなぜだろう。また原は首相として初めて暗殺され、岡田も二二六事件に遭遇する、といったところは因縁じみている。
『逆説の日本史』の方は読みかけだが、沖縄の歴史をずっとたどってきていて、強調しているポイントが小林よしのりの『沖縄論』の沖縄史の部分とかなり重なっている。小林が井沢の著作を参考にしたのかと思ったが、参考文献を見ると同じものを読んでいるので、元が同じということのようだった。井沢と小林の微妙なずれも面白い。
『縦に書け!』の石川九楊は書家にありがちな中国万歳思想が感じられてあまり好感を持っていなかったのだが、この本で示されている感覚はかなり独特の感じ方とはいえ、面白いなと感じる部分が多い。まあ昨日も書いたが、ここは変だなと思う部分はあまり気にしないようにして、大事だと思う部分を吸収すればいいのだ、と思う。今まではその作者の言うところを全的に吸収しなければ、という思いが強すぎたために少しでも変だと感じるところがあると全く読めなくなるという傾向がかなり強かった。その傾向は実は、自分自身の変だと感じる感覚、よこしまだと思うものを排除する感覚を信用できなくなっていたせいだなと思い当たる。最近、自分の感覚的なものに対する信頼がだいぶ取り戻せてきているので、そういう読み方が出来るようになっているのだなと思う。
「なぜ人を殺してはいけないか?」という問いに対し、「自分が殺されたらいやだから」という相対的な回答にたいしどうしてもいやなものを感じていたのだが、「価値」というものを基準にして、お金に換算できる交換価値と自分が使用する使用価値(鑑賞して感動するというようなことも著者は「使用」に含めている)のうち、交換価値ばかりが先立つ世の中の雰囲気がそうしたばかげた疑問と回答を生み出しているのだという話は面白いと思った。交換価値ということばはともかく、使用価値ということばの使い方にはちょっと感覚的にどうかと思う部分もあるが。
たとえば会社というものも、売ったらいくらか、いくらなら買えるかという交換価値ばかりが先に立つ資本主義の暴走状態がフジテレビ買収問題などにも現れているというわけである。しかし、会社の本当の価値は、あるものを生産したり流通したりさせる社会的な価値、いわば社会的な使用価値にあるということを忘れてはいけない、という主張は全くそのとおりだと思う。現代の諸問題の根源には、交換価値至上主義の暴走があるという主張には、大きくうなずけるところがある。
そうしてみると、「なぜ人を殺してはいけないか?」という問いに対し、「自分が殺されたらいやだから」という回答には交換の考え方があるということが明らかになる。いわば核抑止力の考え方と同じで、相手に殺されるといやだからこちらも殺さないというのでは相手が殺そうとするならこちらも殺していいという考え、相手に殺されないためにはこちらもいつも相手を殺せる態勢にいなくてはならないという考えに直結することは否めない。
じゃあどう考えればいいかということだが、交換価値を離れて使用価値という立場に立つと、「人生の使用価値」という問題を設定するしかない。つまり、「なぜ殺してはいけないか」という問いに対して、「人生には生きる価値があるから」と答えるということになろう。その人間の生を生きることが出来るのはその人間だけであり、その生が生きる価値があるならば、それをむやみに奪うことは良くない、ということになるだろう。
もともと、人を殺そうなどという人間は、自分の人生に生きる価値が感じられなくなって、人の命に対する感覚も軽くなってそういう気持ちを起こす、つまり人を殺すということ自体が遠回りな自殺であるという場合が多いだろう。「虫けらのように」という言葉があるが、つまりは生きること自体に価値がない、という歪んだ思い込みからそうした行為に走るのだといえよう。それを考えてみると、子どもを殺す殺人犯からユダヤ人を殺すヒトラーまでそういう思い込みは共通しているように思う。歪んだ確信に満ちた彼らに「人生には生きる価値がある」と主張しても無駄だと言われればそうかもしれないが、しかしそれしかわれわれのよりどころはないのではないか。最終的にはどちらの確信が強いかが勝負であるし、まともに考えればわれわれの側の方が圧倒的に強いことは当然だろう。もちろん、彼らの側の方が強くなることがあるとしたら、それは人類そのものが滅びるときであるが、逆に言えばそれもまた「神」とか「造物主」といわれるものが定めた摂理なのかもしれない。
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