三島由紀夫を語る瀬戸内寂聴と美輪明宏
Posted at 05/07/05 PermaLink» Tweet
昨日は三時ごろ都心に戻ってきて、本を探しに行った。特にあてがあるわけではない。細谷博『小林秀雄』を読みかけだから、特に新しい本に飢えているというわけでもない。
地下鉄の路線図を見て、一番行き易いところを選んだのだが、結局六本木一丁目の泉ガーデン一階の書原にした。
書棚の間をただぐるぐる回るだけで面白いのだけど、それだけでいくつか欲しい本が出てくる。かなり惹かれた本があったのだが、結局やめて、前から少し気になっていた瀬戸内寂聴・美輪明宏『ぴんぽんぱん二人話』(集英社、2003)を買う。結果的にいうと、これは瀬戸内の本の中でも、美輪の本の中でも、私の読んだ限りにおいてはほとんど第一にあげてよいだろうと思う面白い本だった。
最初は霊の話、特に天台寺にまつわる長慶天皇の話が続くが、この当たりも非常に私には興味深い。「科学の子」であった著者二人がそういう世界に踏み込んでいく経緯が語られているのが非常に面白かった。特に瀬戸内がこの分野においては美輪のことを深く信頼していて、何をどうおまつりすべきかなど、よく確認しているという話が面白かった。
しかしなんといっても面白く引き込まれてしまうのは、二人が三島由紀夫を語っている部分である。三島と美輪の交友はもちろん以前から有名だが、瀬戸内がまだ文学少女のころから三島と文通していて、それ以来の付き合いがあるという話は初めて知った。その二人から見た三島というのは非常に繊細で純粋な男であって、世間に向けて倣岸を気取るよく知られた彼の姿とは全く違う面が良く描かれていて、三島という人間を再認識したというか、むしろ自分の目に見えていたものが世間で描かれている像より近かったらしいということに気づいて安心した。
三島は『日本少年』や『少年倶楽部』で育った世代で、「少年というのは凛々しくて、潔く清くて、正しくて、優しくて、思いやりがあって、親孝行」だという少年倶楽部のモラルをそのまま持ち続けていた人間だ、というのはうなづける気がする。
三島の異常なまでの純粋さを考えれば、無謀にしか見えなかったあの決起もまた、違う色合いを帯びてくるし、事件のときの扱いのひどさやそのあとの見直しというのもある意味日本人に覚醒を-それが良い方向だったかどうかは別にして-もたらしたことがわかる。
三島事件は新左翼に影響を与えて爆弾闘争が始まったわけだし、その系譜は日本赤軍を経てイスラム過激派にも受け継がれている。その手段に対しては否定するしかないけれども、アメリカ一極支配の現在、それ以外に直接的なアンチテーゼの唱え方があるのかといえばなかなか難しい。三島という、場合によってはノーベル賞をとっていたかもしれない文学者がそうした行動に出たことの影響ははかり知れない。
瀬戸内や美輪によって語られる文学者たちの色恋沙汰も、時代のロマンという土壌の上に咲いた花のように語られていて、美しい。現代の乾いた時代からは想像も出来ない何かが、たとえば小林秀雄と中原中也の葛藤にはあったのかもしれないと思うとある深みを感じる。
「意識の流れ」の話も面白かった。意識の流れをそのまま記述する、というのは私などは時々やるけれども、そんなものを方法論として意識したことはなかったし、なんていうかこんな怠惰な書き方でいいんだろうかといつも反省していた。しかし確かに、そういう方法でしか書けないことはあるし、それが方法論的にというか戦略的に使いこなせるようになれば、さらに新しい世界が開けるかもしれない、と思った。
自分を振り返って思ったのは、三島が少年倶楽部の申し子というか、そこで示される「徳」を生きようとして生きた、ということに対して、三島にとっての少年倶楽部は、自分にとってのナルニアだ、ということである。自分の思考がいつもナルニアに帰って来るのは、ちょっと大人としてどうなんだろうと思っていたのだけど、三島のような大文学者でもそういうところがあった(いや、そんな単純に考えていいわけではないだろうけど)ということは、私などにとっては心強い。
「ぴんぽんぱん」というのは品位の「品(ぴん)」、根本の「本(ぽん)」、模範の「範(ぱん)」だそうで、誰がつけた題かは書かれていなかったが、なかなかいい題かもしれないと思った。
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